『金持ち心♀♂貧乏心』
すると犬養は、井上の腕を掴んだ。
「二倍だ。」
井上は腕時計を見ると、無表情のまま頷いて
「喜んで、働かせていただきます」
と、犬養に言う。
そして、部屋をノックして「お嬢様、今日の定時が延びましたので、私と何かしましょう。」と言い、部屋に入って行った。
「犬養さん。いいんですか?」
「これも自分の延命のためでございます。たかが、一ヶ月の給料が泡となり、消えただけでございます」
お手伝いは視線で「誰か犬養さんに、今月の給料はいりませんって言いなさい!」と送るが、みんなその視線を無視して「さぁお仕事、お仕事」とぞうきんを取り、廊下を歩いていった。
「あなたは、今月の給料必要ですか?」
「ヤダッ、犬養さん・・・必要に決まってるじゃないですか・・・」
「ハハハハハ」と笑って、お手伝いは、自分の担当場所に戻っていった。
「誰か、クビにしなきゃ、いけませんね・・・・」
犬養はそう言うと、背筋を伸ばし、白雪の部屋へと向った。