Color
…―――あれから、もう10年が経つんだ。
春はベンチから立ち上がり、目の前にある砂場の中心で深呼吸しだした。
ぼーっと背中を眺めてると、春は突然振り向いた。
「俺は、ずっとずずが好きだった」
そして、ゆっくりあたしの座るベンチに近付いてくる。
「ずずだけを見てきた」
低くて優しい、春の声が、公園の暗闇に溶ける。
すぐ目の前に立つ春は、背中を屈めてあたしの頬に触れた。
「約束を忘れたことなんか、一回もない」
そして、その大きな手がこぼれ落ちるいくつもの涙を拭った。
「今でも、ずずが好きだよ」
言葉にできない想いが、ドッと溢れた気がした。