葱‐negi‐
葱。

俺の母親は福島の出身だ。この地域の名物に高遠蕎麦というものが在るのだが、その中でも水蕎麦という物が母親の好物だった。


水蕎麦とは薬味である鰹節と大根おろしに醤油を入れて食べる蕎麦であり、一本の葱を箸の代わりに使って食べる物だ。


幼き日に一度だけ母の実家を訪れた際に食べた記憶がある。


母親の蕎麦を啜る慣れた手つき、蕎麦の灰色に映える葱の鮮やかなる白と緑。それを口に含んではバリバリと健康的に噛む姿は今も俺の脳の一番心地よい場所に埃を被る事無く鎮座している。

< 5 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop