近くて遠い距離
恋心、抱く。
「次、田中さんだよ。」
ニッコリ笑ってマイクを渡してくる聖に警戒しながらもマイクを受けとる。
「そんなに警戒すんなよ。」
聖がハハッと笑って私を見てくる。
うん、でもさ。
よく見てみれば。
顔は悪くない。
つり目な瞳に、プルッとした唇。
そして、香水と少しだけ香る煙草の匂い。
筋肉質な体。
一つだけ付けている、ピアス。
うん、悪くはない。
これで歌が上手だったら私も惚れるかもなぁ…。
そんな事を思ってみる。
駄目だ、駄目駄目!
また苦しい想いをしちゃう!
頭をブンブン、二回大きく振る。
「…大丈夫?梨李愛。」
愛が心配そうに私を見つめる。
「ん?大丈夫!」
「本当?」
「うん。ありがとね、愛。」
愛に笑いかけてテレビ画面を見る。