近くて遠い距離
「なぁ、田中さんって俺の事好きだろ。」
「な訳な「好きだろ。」」
呼吸を整えながら否定する私に聖が言葉を被せる。
好きじゃない、こんな奴。
好きになりたくない、こんな人。
そんな言葉がぐるぐると頭の中を巡る。
「まぁ、今好きじゃなくても今から俺を好きになる。」
「は?自意識?」
「俺が5数えたら好きになってるよ。」
「馬鹿馬鹿しい。」
「ならやってみる?」
フフッ、と不適に笑って
1、
と私の耳元で囁く聖。
絶対に好きになったりなんかしない。
「2」
聖が私の髪の毛を優しく、撫でた。
「3」
今度はもう片方の手を腰に回してくる。
「4」
頭から背中を伝う、聖の指。
「5」
聖がそう呟いたと同時に自分から聖に唇を重ねた。
――…妖艶に笑った聖に、私は…恋をした。