君に逢いたかった理由。


『名前?』

「…そぉ」

『…ふぅん。そっか』


そう言って、また優しく笑う。


『ケーキ、食べよっか』

「ん、」


部屋に紅茶の甘い香りが広がる。
優しい優しい、穏やかな雰囲気。



「尋…ありがとう」

『うん』

「あの時…言ってなかったから」

『うん』


尋は、
ただ頷いていた。


多分、なんの「ありがとう」なのか
分かってるんだろう。


助けてくれてありがとう。
名前をくれてありがとう。

光をくれて…ありがとう。


『架月は俺が好きだもんねぇ』


ケーキを切り分けながら尋が言った。


「はっ!?」

『ふははっ、焦りすぎ』

「尋なんて…好きじゃないし」

『はいはい』


そう答えた尋の顔が余裕で。


悔しいから、
あの日嬉しくてちょっと泣いたなんて
尋には言ってやんない。


まぁ、
たぶん尋は気づいてるだろうけど。


『さ、食べよ!』

「うん!」



name


< 8 / 13 >

この作品をシェア

pagetop