君に逢いたかった理由。
『名前?』
「…そぉ」
『…ふぅん。そっか』
そう言って、また優しく笑う。
『ケーキ、食べよっか』
「ん、」
部屋に紅茶の甘い香りが広がる。
優しい優しい、穏やかな雰囲気。
「尋…ありがとう」
『うん』
「あの時…言ってなかったから」
『うん』
尋は、
ただ頷いていた。
多分、なんの「ありがとう」なのか
分かってるんだろう。
助けてくれてありがとう。
名前をくれてありがとう。
光をくれて…ありがとう。
『架月は俺が好きだもんねぇ』
ケーキを切り分けながら尋が言った。
「はっ!?」
『ふははっ、焦りすぎ』
「尋なんて…好きじゃないし」
『はいはい』
そう答えた尋の顔が余裕で。
悔しいから、
あの日嬉しくてちょっと泣いたなんて
尋には言ってやんない。
まぁ、
たぶん尋は気づいてるだろうけど。
『さ、食べよ!』
「うん!」
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