【短編】俺とアイツ
「…どうした?」
とりあえず体を離してもらうのは諦めて、俺は話を聞くことにした。
だってそうでもしないと、コイツはきっとこのままだろうからな。
「何かあったか?」
顔を覗き込むように首を傾げると、アイツは見せまいとして顔を逸らす。
は?
何なんだよ。
「おい。こっち見ろ」
「…やだ」
「あのなぁ…」
ハァ…
もう胸が当たってるとか、どうでもいい。
性欲なんて消え失せた。
こんな状態で盛らない男なんて、馬鹿だよな。
けどさ、そんな自己の欲望より、コイツの方が俺にとっては大切なんだよ。
「………柚(ゆず)」
噛み締めるように名前を呼ぶと、アイツは勢いよく顔を上げた。