zinma Ⅲ
それに、男と後ろの者たちを見た客たちは、何事もないかのようにまた酒を飲みはじめる。
ただ腕を掴まれたナムと巨大な男のことをちらちらと見て、どこか落ち着かない様子だ。
ナムは泣きそうになる自分を奮い立たせ、なんとか頭を働かせる。
どうにかして、逃げないと。
そこでナムは、素早く店の中を見る。
きっとレイシアとシギがいるのだ。
あの若い2人にこの大男がどうにかなるかは別として、2人さえ見つかれば逃げ道ができるかもしれない。
2人に街の者たちを呼ぶように頼むこともできる。
それで2人の姿を探すが、なかなか見つからない。
広い酒場には座るところがないほど人がひしめき合っていて、動きまる人も多い。
だがナムが諦めず必死で2人を探していると、ぐいっと腕を引っ張られる。
また腕が痛むが、気にせずナムは2人を探す。
その間に大男は酒場のカウンターへと向かい、酒を注文する。
そして無理矢理ナムを隣に立たせるが、ナムは大男を見ないようにして視線だけで2人を探し続ける。
しかし、
「良い女じゃねぇか。」
と、大男の後ろをついて歩いていた男たちの1人がナムの目の前に立ち、言う。
それに便乗するように他の男たちもナムを囲むように立つので、ナムは絶望する。
これでは2人を探すことも、2人が自分を見つけることもできない。
さらに、酒場の主人から酒を受け取った大男がまた強くナムの腕を掴み、じろじろと見る。
それからまた、にやりと笑うと酒場の主人に向かって、
「おい。部屋は空いてないか。」
と聞く。
主人はびくっと肩を震わせてから、答える。
「は、はい。空いてますが……」
「早く用意しろ。」
大男がそう言うと、ナムを囲んでいた男たちから歓声があがる。
それにナムは今度こそ身体が震える。
その震えを抑えようと自分の肩を両手で抱きながら、ぎゅっと目を閉じて、助けが来ることを祈る。