zinma Ⅲ
「たとえば……
あなたのご両親のこともそう。
親代わりだった師匠たちを王家は無惨な目にあわせた。」
それにシギは目をふせる。
シギの両親はレイシアの師匠であり、長年レイシアに修業を施しながら、彼を育てた。
その両親は王家によって村全体を人質にとられ、軍の戦力として働かされた。
たくさん戦争に無理矢理送りこまれ、ルミナ族の持つ不思議な力を大量虐殺に利用されたうえに、シギを産むために里帰りしようとした両親を王家は勝ち目の無い戦争に行かせた。
瀕死になって帰ってきたふたりは、シギを産むために『呪い』と契約し、王家から逃げ、探し出した『選ばれしヒト』であるレイシアに『呪い』を吸収させて死んだ。
ルミナ族の村は、王家が焼き払った。
シギはそのルミナ族の最後の生き残りなのだ。
「あとは…
私は昔、王家の軍によって監禁され、酷い実験対象にされましたしね。」
突然のレイシアの告白に、顔を上げてレイシアの顔をまじまじと見て、
「……初めて聞きました。」
と言うと、レイシアは、そうでしたっけ、と小さく笑い、続ける。
「私は小さいころ人の前で『選ばれしヒト』の力を使ってしまって……
ルミナ族を必死で探していた王家の軍に、ルミナ族の生き残りだと思われて捕まったんです。
そこで拷問とも言える実験を受け、数年してある村に逃げた。」
初めて聞くレイシアの過去に、シギは目を見張る。
「……それで王家を…?」
そうシギが聞くと、レイシアは小さく笑い、
「いえ、憎んはいません。
小さいころは、あの実験対象のころが辛すぎて憎んだこともありましたが、『選ばれしヒト』としての運命を受け入れた日から何も思わなくなりました。」
と言う。
しかしシギは納得できなかった。
さっきまでの街を見つめるレイシアの瞳は明らかにいつもとは違ったのだ。
するとそのシギの考えを読んだかのようにレイシアは微笑む。
「憎んではいませんが……
複雑ですよ。
あなたもご存知のように、私には感情がない。
だから、この街の広さや美しさに正直に感動できずに、ただただこの華やかな街の裏にある王家の暗い部分を考えてしまって…
この街の平和を馬鹿みたいに感じてしまう。
ああ、この人たちは、何も知らないんだ、幸せだろうな、とね。」