zinma Ⅲ






その後、シギはゆったりとシャムルの町並みを歩いていた。


石畳の道は整備されていて、その脇に絶えることなく飾られた花々もだれが世話しているのか、完璧に輝いている。



そこで突然、視界が開けた。





「これは………」



シギはそんな感嘆の声を上げた。



目の前には大河とも呼べる広い川が流れていた。

向こう側も同じような町並みがあって、川辺も整備されていることからすると、これがレイシアの言っていた大水道なのだろう。


水道の大きさに比べ水の流れは穏やかで、レイシアの言っていたとおりたくさんの船が水道を行き来している。


3人ほどが乗っている小ぶりのものがほとんどだが、中には10人以上が乗れそうな大きなものもある。




「……すごいな………」


思わずそうつぶやきながら川辺へ近づいて行くと、



「この街の者じゃあないのかい?」



そんな声が足元から聞こえてくる。




シギが驚いてそちらを向くと、川辺に止めた船に、パイプをふかして座りこちらを見上げる老人がいた。

軽い服装をして帽子を被り、白いひげをしっかり整えた小柄な老人だ。



水道は石畳の道よりも少し低く作られているので、座っている老人は道に頭がやっと出るようになっている。


「はい、まあ。」


旅人だと言っていい服装ではないことを思い出し、シギがそう答えると、老人はパイプをふかしたまま帽子のツバを上げた。



「私はこれでも船頭をやってるんだ。
どうだい、乗らないか?」


初めて聞いた言葉に、

「船頭?」

とシギが聞き返すと、老人は口からパイプをとり、そのパイプで水道のほうを指す。


「そこらじゅうにある船みたいに、このシャムルの水道を客を乗せてまわる。

それが私の仕事でね。」



よく見れば数えきれないほどの船が水道の脇に止められていて、老人のように客が来るのを待っている様子だ。


シギがそれに感心していると、老人はまたシギのほうへ振り向いて、パイプをくわえて続けた。


「これでも船を操ってもう40年だ。

街の水道についてはかなり詳しいよ。案内しようじゃないか。」



シギが驚いたように老人を見ると、老人は気の良さそうな微笑みを浮かべて笑った。


「なあに、若者からぼったくろうとは思わないさ。

特別に無料で乗せてやるよ。」


「え、いいんですか?」


「はっは!もちろんだ。

だが、特別だからな。」


老人は船から即席の木製の階段を取り出し、低い船から少し高いところのシギの立っている道へと立て掛け、立ち上がる。




「では、お願いします。」

シギが微笑んでそう言うと、老人はまた、パイプをくわえたまま微笑んだ。





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