zinma Ⅲ
「んだと、てめぇ!!!!」
「やれやれ!!!」
食器が当たる音。
男達の大笑い。
物が割れる音。
耳がおかしくなりそうなほどの騒音が鳴り響く酒屋に、レイシアは来ていた。
周りを目だけを動かしてで確認すると、レイシアはまっすぐに酒屋の中を横切り、カウンターの席に座った。
柄の悪そうな体にいくつも傷痕のある男たちや、ぼろぼろに敗れた服を着た放浪者らしい者たちばかりの酒場で、異常に美しい容姿をしたレイシアは闇夜の月のように浮いていた。
それでも酔っ払った男たちはレイシアを気にする様子もないが、カウンターに立つ主人だけはレイシアを怪しむような目でちらちらと見ている。
「……あんた、注文は?」
コップを拭きながら低い声でそう言う主人に、レイシアは先に出された一杯の水に口をつけてから言う。
「いえ、酒はいらないんですが…
情報を買いに来ました。」
すると途端に主人の顔が鋭いものになる。
それをレイシアは横目で確認すると、主人の方を向かないまま言う。
「あなた、情報屋でしょう?」
主人はまるで聞こえないかのように無表情でコップを拭きつづける。
しばらくの沈黙。
レイシアはその間コップを握りしめたまま静かに待った。
「……どこで聞いた?」
こちらを見ないまま言った主人に、レイシアも顔を上げることなく、コップを見つめたままにっこり微笑む。
「秘密です。」
「……ふん。情報をやる奴としては合格だ。
だが報酬は十分あるんだろうな?」
そこまで言ったところで、酔っ払った客から注文を受け、主人は何事もなかったかのように酒を用意し、客のほうへ酒をテーブルの上に走らせる。
それを見届け、レイシアは自分の白いブラウスの胸元へ手を入れる。
小さな革袋をそこから取り出し、テーブルに置いた。
主人はそれを横目で確認すると、一杯の酒をレイシアの前に置き、そこから引く手で自然にその革袋を取る。
カウンターの影で革袋を開くと、形は整えられていないものの、異常に輝く宝石が10個ほど入っていた。
主人がそれを確認し、探るように横目でレイシアを見上げると、レイシアがまた主人の方を見ないまま言う。