zinma Ⅲ
「北の山脈のほうから旅をして来たものでして。
クル山脈で採れたトラガー石です。
トラガー石、ご存知ですよね?」
それに主人は横目でレイシアを見て、にやりと微笑む。
「トラガー石か。
最近こっちの業界の、それもかなり情報に精通してる奴らの中じゃあ有名な話だ。
あんた、信用できそうだな。」
そう言って革袋を汚れたエプロンのポケットに突っ込む主人に、レイシアも微笑む。
トラガー石とは、一般の人間からしたらただ綺麗なだけのガラス石のようなものだと思われ、わざわざ採掘されることもないような石だ。
しかし最近、貴族の中で密かにトラガー石が流行しているのだ。
というのも、世界で最も美しいと言われ、さらに希少価値の高いローゼン・ブルーと言う宝石に、上質のトラガー石は瓜二つなのである。
貴族の装飾品の中でも、ローゼン・ブルーを着けているというのはそれだけでその貴族の威厳を表す。
しかしトラガー石があれば、格安で、その威厳を手に入れることができるのだ。
そのため、闇のルートを通じ秘密裏に上質のトラガー石を売買する貴族が増えてきていた。
闇に生きる者たちは、なるべく上質のトラガー石を採掘し、貴族に高値で売り付ける。
そして、なるべく多くの貴族のパイプを手に入れるために、そのトラガー石の情報は外へ漏れないよう、極小数の情報屋にしか知られないように情報操作が行われているほどだ。
そのトラガー石を渡したレイシアは、かなり情報を良く知る、主人からしたら信用できる存在だということだ。
「これだけ上質のトラガー石ならかなり高値になる。
さあ、何が聞きたい?
なんでも答えてやろう。」
コップを磨いたりしながら、そう主人が機嫌良く言うので、レイシアは微笑む。
「そうですね。
それでは、少しずつ聞いていきましょう。」
騒がしい酒場の中で、レイシアは一気にコップの中の酒を飲み干した。
「ほら、あれがこの街で二番目にでかい噴水だ。」
「本当だ。すごいですね!」
船頭の老人に船で案内されながら、シギは船でシャムル中の水道をまわっていた。
流れの穏やかな水道の上をゆっくりとすべっていく船の上で、老人船の先に立ってパイプを器用に口にくわえながら、3人分の背丈はありそうな長い杖で水面をつきながら船を進めていく。