zinma Ⅲ
しかし酒場の主人が震えながら、
「で、ですが、その娘はこの近くの宿屋の娘でして……。
その……娼婦ではないんです。
ですから…その……」
と、そこまで言ったところで、店のカウンターが吹っ飛ぶ。
ナムや他の客たちが言葉を失ってそっちを見ると、大男が拳を握って立っていた。
どうやらこの大男がカウンターを吹っ飛ばしたらしい。
カウンターはたしかに木製だが、そう簡単に壊れるものではないのだが。
「部屋を用意しろと言ったんだ!!!!
何度も言わせるな!!!!」
だれもが震え上がるような地面をびりびりとさせる怒号に、酒場が一瞬で静まり返る。
酒場の主人も、恐怖でぶるぶると震え、まったく動けないでいる。
「聞こえないのか!!!!!」
とまた大男が怒鳴り、主人が身体をびくつかせたところで。
この場にはそぐわない静かな声が響く。
「そこまでにしましょうか。」
店中の視線が、声の主へそそがれる。
いつの間にか大男のまわりの客たちは後ずさっていて、そこだけ人がいなかったのだが、そこに一人の青年が立っている。
まったく緊張していないように楽そうに腕を組み、立っているその姿は、まだ少年と言っていい年齢。
レイシアだ。
優しげに目を細めているが、その瞳は底が見えない。
鬼気としたものが、感じられる。
その楽そうにした体勢や、少年のような容姿、整った顔と優しげににこにことした微笑みとは裏腹に、レイシアから放たれる雰囲気に、誰もが震えていた。
どことなく、空気がぴりぴりと電気を帯びているような感じがする。
「……なんだお前。」
大男だけは顔だけ恐ろしくしかめ、レイシアを睨む。
しかしレイシアは、それさえもにこにこと流し、
「なぜあなたに名乗らなければならないんです?」
と笑う。
それに大男の表情がまた険しくなる。
ナムは、もう心臓が爆発しそうなほど緊張してその様子を見守る。