zinma Ⅲ
レイシアは、この世界にはかつて、本当に神という存在がいたと信じていた。
というよりも、自分自身がその証拠のようなものなのである。
今のレイシアの推測では、こうだ。
かつて、この地には何人かの神、少なくとも4人の神がいて、4つの地方、つまり東西南北に、それぞれ一人一人の神が住んでいた。
神はなんらかのきっかけによって、この地を離れることになったか、もしくはこの地とひとつになったか……
とにかく、消えてしまった。
だが、その神の名残が、今だこの世界には存在していて、それがこの世界の各地方に、奇っ怪を起こしている。
つまり、『秘密の森』には、何か神が隠したがっていた何かが、あるのではないだろうか。
これは『選ばれしヒト』の運命には関係のないことだが、どうしても気になった。
「秘密の森………か。」
だが、不用意に『秘密の森』に入ることは、あまりにも危険だ。
実際、戻ってきたものは少ない。
たった唯一の連絡手段は、東に住む者に協力を頼むこと。
しかしその東の村や街も、その『秘密の森』に囲まれるようにして位置しているために、なんらかの方法で彼らに連絡を取り、迎えを頼むしかない。
だが………
「俺たち情報屋も何人も人をやとって向かわせたんだがな…
やはり『秘密の森』に詳しい東地方の奴らがいないと話にならん。
かといってあっちとは最近めっきり連絡が着かなくなったからな。
はっきり言ってお手上げだよ。」
コップをふき終わった主人はそう言うと、こちらに背中を向けて何か仕事をし始める。
レイシアは手に持っていたコップを置くと、主人の背中に声をかけた。
「いつ頃から連絡がつかなくなったんですか?」
すると主人は、ちらりとレイシアを見ただけで、すぐにまた仕事に戻ってしまって。
レイシアはその主人に苦笑いを漏らすと、ポケットからさっき渡した中にはないほど大物のトラガー石を取り出し、目の前に置いていた空のコップに放り込み、カウンターの向こうに置く。
「………で?」
にっこりと微笑んでそう言うと、主人がゆっくりと振り向いて、カウンターに隠しながらトラガー石を見つめる。
それに思わず頬が緩む主人を見て、レイシアはまたにっこり微笑んで主人を見上げた。
「それとさっき渡したのがあれば、もう情報は聞き放題だと思いませんか?
私、たかられるのは……あまり気持ちも良くないので。」
にこにこと微笑むわりに、低いレイシアの声に、主人が石のほうをうつむいたまま、目だけでレイシアを見つめる。
しばらくそうして、主人は口の端を上げて笑った。