zinma Ⅲ
主人は苛立たしげにうなずき、少し刺々しい口調で続けた。
「ああ、嘘だ。真っ赤な嘘。
ゴルディア族はもともと王家の軍よりも、軍事力はない。
今だにまともな鎧すら作れねぇ奴らだから、実際6年前までは反乱は鎮圧の道に進んでいたんだろう。
だからこそ、ありえない大逆転らしい。」
レイシアはそれに無言でうつむいた。
ゴルディア族はキニエラ族に継ぐ規模の部族だが、砂漠に住んでいるだけに文化は発達しておらず、基本的に文明には頼らない部族だ。
さらにゴルディア族には、キニエラ族に多大な借りがある。
「………本当に不思議なことに、突然軍が歯がたたないほどの力をつけた。
軍も軍で最近昇進してきた将校を南に向かわせたらしいが、頼りになるのかどうか……」
主人がそう続けるが、レイシアはそれよりもこれからのことが気になってしまった。
長年キニエラ族を恨んできたゴルディア族が勝ってしまったら、キニエラ族の王政は一気に崩れる。
世界がひっくり返るようなものだ。
おそらくゴルディア族は、キニエラ族のこの王都を潰すことに、なんのためらいも抱かないだろう。
ゴルディア族というのは、奴隷民族なのだ。
これだけ立派な王都ができあがったのも、すべてゴルディア族の血の上に成り立っていると言える。
この王都が完成したのちでも、キニエラ族はゴルディア族を奴隷として扱い続けた。
貴族が必要なだけゴルディア族をさらい、こき使って過労死したら、はい次と言った始末。
それに耐え兼ねたゴルディア族が、ついに昔反乱を起こしたのだ。
「……奴隷制なんて馬鹿なことやってきたからこんなことになるんだ。
もしこのままゴルディア族が優勢のままなら、俺はこの街を出ようと思ってる。
さっさと北へ逃げるさ。」
冷静にそう言う主人に、レイシアは小さく笑って同意した。
「いいですね、私もそうします。
ですが逃げるなら、西のほうがいいのでは?」
西は各地方の中でも特に穏やかで、過ごしやすい地方だ。
神の力だという風のおかげて、土地は肥え、さらに北や南、東とはちがい、西はキニエラ族の故郷と言われていて、古くからキニエラ族の血の濃い地方だからでもある。
しかし主人の反応は、苦虫をつぶしたような顔になった。
「西?西は南よりもだめだね。
死んでも行くかよ。」
レイシアは思わずそれに目を見開いた。