zinma Ⅲ






思わず、手だけで胸元のネックレスを探す。

ネックレスの先についた手の平大の小さな石を、シャツの上から握りしめた。



「西が………ですか?
いったい何が………」



「大飢饉だよ。風が止んだんだ。」




主人は顔をしかめ、レイシアに新しい酒を出して黙り込んだ。


心臓が鼓膜の近くにあるかのようにうるさく鳴っているのが聞こえ、こめかみがドクドクと脈打つ。



「風が………?」


「ああ。世界の歴史の中でも、西の風が止んだなんて初めての出来事らしい。

風が止んだせいかどうかは知らないが、それから一気に西の土地は枯れた。

それも厄介なのは、それも……」


「まさか………8年前?」


「ああ。」




もう言葉もなかった。

西にはなんの災害も訪れることはないと思っていたし、だからこそ西に行くのは最後にしようと思っていたのだ。


だが、今すぐにでも行きたい。


だって西には………




「………西の今の状況は?」


なんとか鼓動を落ち着け、静かにレイシアは聞いた。


すると主人はカウンターに身を乗り出してあたりを見渡すと、小声でレイシアに耳打ちをする。




「いいか、俺は情報屋仲間の中でもとくに良いパイプを貴族やら軍やらの関係者の中に持ってる。

それをわかったうえで聞けよ?」



それにレイシアがうなずくと、主人はカウンターの向こうにまた戻り、しかしさっきまでのごまかしごまかしのような態度ではなく、真っすぐにレイシアを見つめて語りはじめた。




「まず、風が止んじまった瞬間は、西の地方全体だったらしい。

だが、比較的王都に近い街には、すぐに風は戻ってきたらしいんだ。だから、まだ西の地方でもこのあたりの街は、飢饉にもなっていないし、いつもの暮らしが続いている。

ただ、西の要塞よりも向こうからは、まだ風が止みっぱなしで、土地が枯れちまったって噂だ。」


「噂?」


「そう、噂だ。

どうやら、軍は飢饉で税金の払えなくなった西の街で、ここんとこの人狩りをやっているらしい。

だから西の要塞より向こうについては、かなり厳しい情報規制がかかっちまってな。

ほとんど情報が入ってこねぇ。」



肩を落としてそう言う主人に、レイシアは険しい顔になって酒の入ったグラスを握りしめた。


あまりにも情報が足りない。




あの村の




彼女のことを知るには……









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