zinma Ⅲ
「…………師匠。」
「なんです?」
「軍に乗り込むということは……私の父と母のことも…何かわかるでしょうか……。」
シギの質問に、レイシアは一瞬黙り込んでしまった。
軍。
シギの中で、軍や王家というのは、両親の命を奪い、一族を皆殺しにしたただの敵でしかない。
だが、復讐はしたくない。いや、できない。
それは誇り高く生きた両親の意に、反するような気がして。
でも、いざ敵を目の前にしたときに、平気でいられる自信はなかった。
「……そうですね。
なんらかの情報が手に入る可能性はあります。」
「ならば……!」
「ですが、ルミナ族の情報は軍の中でも最高機密です。
何があっても隠しとおしたい情報なはず。
おそらくは、王家か軍の最高司令官が直々に管理していることでしょう。
さすがに、手に入れるのは難しい。」
「……………。」
「あなたなりに調べるぶんには構いませんよ。
雑念を持って軍に忍び込んで、ヘマを犯されても困りますからね。」
そのレイシアの言葉に、シギは思わずはっと顔を上げた。
「師匠、師匠は王立図書館はご存知ですか?」
するとレイシアが珍しく驚いたような、感心したように眉を上げた。
「なかなか良いところに目をつけましたね。
確かにあそこには何か……」
レイシアは椅子に座り直して足を組むと、窓枠にまた右肘をついて、その右手で口を押さえて何か考えはじめた。
「確か彼はあそこに………」
何か小さくレイシアがつぶやくが、うまく聞き取れなくてシギは眉をよせた。
やはりレイシアは王立図書館のことを知っていた。
どうやらなんとかして王立図書館にも入ろうとしているようで。
絶対に不可能なことなのに、レイシアがやると言ったらできそうな気がしてくるのが不思議なところだった。
そこでシギは受け取った見取り図に目を落とした。
その真ん中あたりに、他よりも大きな部屋があるのを見つけ、文字を読む。
『聖泉』
そう書かれている部屋を見て、街道でレイシアが聖泉を見たいとか言っていたのを思いだし、乗り込むならここも見に行くんだろうと予想した。
そういえば、この聖泉をシャムルの人間に配ったのも、ラムール老だった。
「師匠。」
「…………なんです?」
「ラムール老という方のことも知っているんですか?」
それにレイシアがゆっくりと振り向いてシギを見つめた。
「………どこでその名前を聞いたんです?」
静かなレイシアの声に少し不思議に思ったが、シギは大人しく答えた。
「いえ、先程シャムルの住人に…」
するとレイシアはまた考えこむように外を見て、口の端を上げて笑ったかと思うと、シギのほうを見て微笑んだ。