zinma Ⅲ
「ガキが。首突っ込むんじゃねぇよ。」
普通の人間ならそれだけで膝が抜けてしまいそうになるような声で男が言うが、またレイシアには効かない。
「もちろん私も好き好んであなたにケチつけるわけではありません。
放って置いて差し上げたいのは山々ですが、ただ……」
そこでレイシアはナムに目を向け、ナムにだけわかるように一瞬優しく微笑むと、
「その女性は、返していただきたいんです。」
と言う。
しかし大男はまったく聞く耳を持たず、
「じゃあもう俺の邪魔すんじゃねぇよ。
ガキの相手するほど暇じゃねぇんだ。」
と言って踵を返し出ていこうとして、ナムの腕をまた掴もうと手を伸ばす。
しかし。
大男が踵を返した先には、いつの間にかレイシアが立っていたのだ。
さっき立っていた場所からは5歩ほど離れているのに、さっきとまったく同じ体勢でその場に立っている。
ナムと大男の間に入るようにして。
さすがの大男も怪訝な顔をして、さっきレイシアが立っていた場所を見るが、そこにはやはりもうレイシアはいない。
それに、
「てめぇ……」
と大男が言うと、ナムを囲んでいた男のひとりがレイシアに殴りかかる。
レイシアの背後から殴りかかったために、レイシアはまったく気づく気配がない。
レイシアに当たりかけたところでナムもやっと気づくほど早い拳。
当たる、と思い、咄嗟にナムは口に手を当てる。
しかし。
レイシアは、まるで虫をはらうかのような軽い自然なしぐさで片手を振る。
するとレイシアに当たりかけていた拳が、そのレイシアが振った手の甲に当たる。
ぱんっという大きな音が響いたかと思うと、レイシアに殴りかかっていた男が横へ吹っ飛んだ。
テーブルにぶつかり、動かなくなる。
レイシアはその間、大男に向き合ったままだ。
何事もなかったかのように、また自然なしぐさで片手を元に戻し、涼しい顔をしている。