zinma Ⅲ
王立図書館の中は言葉を失うものだった。
本の壁、とでもいうかのように、壁という壁はすべて本で埋めつくされている。
床はすべてガラス張りで、その下は水が満ち、魚が床の下を泳ぐ様子はまるで大きな水槽になっているようで、水の上を歩いているような感覚になった。
「素晴らしいですね………。」
シギは思わずそんな簡単のため息を漏らし、ひどく明るい場所があるのでそこへ歩いて行った。
そこはあのガラスのドームだった。
吹き抜けになった大きなドーム状の建物はメインホールといった感じで、一階にたくさんの机や椅子が備えつけられている。
降り注ぐ太陽のもとで、学者や学生や貴族が、ちらほらと静かに本に目を落としていて。
「やはり、来たかいがありました。」
そんな声にシギが振り向くと、レイシアが珍しく興味深げに図書館の中をキョロキョロと見回していた。
見渡すかぎりの本に、どこか目が輝いているように見える。
シギはそんな普段は見られないレイシアの様子に少し笑うと、同じく心が弾む自分を抑えながら、静かにレイシアに言った。
「師匠、では私はここからは勝手に動きますから。」
「えぇ、そうですね。
なにせ広い図書館ですから、迷子にならないように。」
「子供じゃありません。」
「はは、そうですね。それでは。」
「はい。」
どこに行くのか決まっているのか、真っすぐに図書館の奥へ歩いていくレイシアを見送って、シギはもう一度ドームを見上げた。
本当に、美しい。
シギは目を下ろすと、四方に広がる広い図書館を見回して、歴史や古文学の立て札を探し、そこへ向かった。
図書館はドームを中心に広がっていて、ドームほどとはいかずとも、すべてが高く、何階建てにもなっていた。
たいていすべて吹き抜けで、壁に本が並べられているような状態。
年老いた賢者たちのためか、各階は階段だけではなく、どうやら水車を利用しているらしい仕組みによって、井戸と同じような巻き上げ式で上に上がれるようになっていた。
レイシアは『伝説、古書』と書かれた立て札の区域まで来ると、巻き上げを利用しながら4階まで上がった。
階がわけられているとはいえ、各階の本棚は人が3人ほどの背丈はあるために、横に移動できるはしごが備えつけられている。
レイシアはそのはしごに登ると、片手で捕まりながら本を抜いてはパラパラとめくり、内容を確認してはしまったり脇に挟んだ。
数冊の本を手に抱えると、奥にあるテーブルまで持っていってレイシアは読み込んだ。
古い失われた言葉で書かれた本を、訳しながら素早く読んでいく。