zinma Ⅲ








「これは………………」



ある記述に目を見開いたところで、本棚の向こうから気配を感じで、レイシアは読んでいた本をほかの本の下に入れ、別の本を開いた。





「…………ほぉ、珍しいな…。この区画に若者がおるとは……。」



レイシアが顔を上げてそちらを見ると、もう80歳近いと思われる背中が曲がった小さな老人が、ゆっくりと微笑んだ。

レイシアは老人をしばらく見つめて、貴族然とした美しく微笑みを、老人に返した。















『*テス族

北を中心に広がる遊牧民族。
その血は多民族が交わっており確立はされていないが、元はクル山脈を中心に移住を繰り返したテス族が元と考えられており、北の少数民族は総称してテス族と呼ばれている。』



シギはそんな記述を、テーブルについて真剣に見つめていた。


自分がついこの前までいたのはクル山脈の小さな村だから、あの村のものたちもみなテス族なのだろう。

それすら知らなかったことに、驚く。



さらにシギは次々とページをめくっていった。




数ページいったところで、世界の地図と、それぞれの地域での民族の分布図が書いてあり、手を止めた。



やはり中心に向かうにつれキニエラ族の数は増し、北はやはり多くの部族が混ざっていて、西は比較的にキニエラ族の血が強いようだ。


なぜか南にはゴルディア族という部族がいるだけで、まったく他の血が混じっていないうえに、南といえる土地はすべてこのゴルディア族に占められている。

しかし前後のページをいくらめくってもゴルディア族の記述はなく、まるでわざと記録を消したかのようで。


世界単位のこの謎が『呪い』に関係あるとも思えないが、なんとなく気になってしまい、ひとまず持ってきていた紙にメモをした。





「あ、れ…………?」



シギは思わず本に食いつくようにして地図を指でなぞった。



東の地方には、何も記されていない。



いや、正確には、小さな村がいくつか書かれてはいるが、詳細な情報はまったくと言っていいほど書かれていなかった。

村の位置もどこか曖昧で、大きな森の中にあるということしかわからない。



シギはぺらぺらとページをめくって、東西南北の地方の概要が書かれているページを探して開いた。






『この世界は遥か昔から4つに分けられている。

北、南、西、東。

山々のそびえ立つ北の『幻の天界』
果てなき砂漠が広がる南の『豪手の領地』
穏やかな風の吹き抜ける西の『神鶏の庭』
すべてを飲み込む東の『秘密の森』


これらすべてがあってこそ、この世は成り立っているのだ。』





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