zinma Ⅲ
『……私は2年ほど軍の世話になってますからね。』
寒気を覚えるほどの空虚なレイシアの笑顔に、シギはついつい黙り込む。
レイシアの過去については簡単に聞かされていたが、詳しくはわからない。
ただ、まだ幼いころに『選ばれしヒト』の力を使い、ルミナ族の生き残りを探していた王家の軍に連れていかれ、ほとんど拷問に近い人体実験をいくつもされたことは知っている。
シギは両親から、古くから『選ばれしヒト』の後見人としての義務を与えられたルミナ族が蓄えた『選ばれしヒト』の知識と、ルミナ族の魔術の知識を受け取ったのだが、両親と出会う前のレイシアについては何も知らない。
レイシアがまた本棚に視線を戻し、書類を片付けるその背中を見つめながらシギはそのレイシアの過去に思いをはせた。
するとそこで。
『ん?』
レイシアが本棚でごそごそと何かし始める。
それにシギも、
『どうしました?』
と近寄ると、レイシアは書類をしまおうとしていた棚から何冊か本を取り出す。
すると、空いた棚の奥の壁に、小さな取っ手があるのが見える。
レイシアがそれに指を引っ掛けて手前に弾くと、少し埃を散らしながらその小さなドアが開く。
レイシアがそこへ手を入れて取り出したのは、少し埃のかぶった書類の束で。
『……なんでしょう……』
そうつぶやいてレイシアは書類に目を通していく。
すると、
『………っ!』
レイシアがあるページで息を飲む。
少し目を見開いて、まったく動かなくなった。
それにシギが怪訝な顔をすると、レイシアは突然弾かれたように後ろにある部屋のドアのほうに振り向く。
『……まずい!人が来ます。
早く窓の外へ!』
そう言うやいなやレイシアは書類を持ったまま窓の外へと姿を消す。
それにシギも着いてすばやく駆けようとすると、
『……っ!!』
今までで一番の頭痛が遅い、立っていられなくなる。
シギが頭を押さえ膝をつくのと同時、部屋のドアがゆっくりと開いた。