zinma Ⅲ
部屋の中は、意外と明かりがつけられたままだった。
暗殺者の場合、たいてい自分の顔を隠すのと、闇に慣れた暗殺者を有利にするために、部屋を暗くして待伏せる。
しかしその暗殺者は部屋を暗くするどころか、部屋の真ん中でうずくまっていた。
黒を基調とした服を着ているが、窓のほうを見てうずくまっているためにこちらには背中しか見えない。
そのよくわからない暗殺者に一瞬目を細めるが、ためらうことなく真っすぐに進む。
一瞬でその間はつまり、それと同時に構えた剣を振り下ろす。
まずは、動けない程度の傷を負わせる。
そして、拷問してやろう。
甲高い金属のぶつかる音がする。
それに目を細めると、目の前にはもう一人刺客が現れていた。
同じような黒い服を身に纏った姿。
フードを目深に被っていて、顔は見えない。
腕で剣を受け止めていることからして、服の中にこてを仕込んであるのだろう。
部屋に入って来たのも、先の刺客との間に割り込んで来たのも、まったく気付かせないほどの身のこなし。
それも振り下ろした剣がびくともしないほどの力。
それに余裕がなくなるのを感じ、顔をしかめる。
そして応援を呼ぶことも考え、横目で背後にあるドアを確認する。
「なっ………!」
するとさっきまで開いていたドアは閉まっていて、さらにその取っ手の付近に何本ものナイフが刺さり、固定されている。
開けるのには、時間がかかる。
その一瞬の技に、
「………貴様………っ!」
と、目の前の刺客をにらむ。
それに顔を上げた刺客に、思わず目を見開く。
「………貴様は…………あの北の街道の…………!!」
フードからこぼれるプラチナの髪。
恐ろしいほど整った顔。
不思議な色合いの、穏やかそうな瞳。
明らかに、いま目の前にいるのは、先日街道で出会った旅人だった。
人買いをする貴族を侮辱し、目の前からすばやく姿を消した不思議な旅人。