zinma Ⅲ
大男の拳は見事に拳を振り上げていた男の鳩尾に決まり、
「ぐあっ!」
といううめき声と、肋骨がいくつか折れる音を出しながら、男が後ろに吹っ飛ぶ。
それに巻き込まれ、また何人かの男も吹っ飛び、気絶する。
さらにその間、拳を突き出したままだった大男の背中をレイシアが軽くかかとで蹴る。
ほんの少し押す程度。
それに大男がバランスを崩す。
その隙にレイシアが姿を消す。
するといつの間にか、まだ気絶していない男たちの後ろに来ていたレイシアが、ひとりの男の首に手刀を叩き込み、気絶させる。
意識を失い倒れようとする男の背中を、今度は思いっきりレイシアが蹴る。
すると吹っ飛んだ男が、まだ残っていた男に当たり、気絶。
大男が体勢を立て直すころには、他の男たちは全員倒れふし、レイシアはまた大男の目の前で構えたところだった。
ほんとうに一瞬の出来事。
まだ客が十数人は逃げたか逃げ切っていないかの間に、そこまでレイシアはやり遂げていた。
流れるようなその動きに、思わずナムは見とれる。
「なっ……」
思わず驚きの声を上げる大男に、レイシアは小さく笑う。
そして、
「しっかりしてください。
隙だらけですよ?」
と言うが、その声はなぜか大男の耳元で聞こえる。
それに大男がはっと後ろを振り返ろうとするが、それと同時にレイシアが背後から大男を押し倒す。
カウンターの残骸のうえに大男を叩きつけ、いつの間にか取り出したナイフを大男の首に当てる。
「ぐ………。」
と男は一度うめき、黙る。
「そう。大人しくしてください。」
と、レイシアは優しげな声でそう言うが、その声とは裏腹に絶妙な力加減でナイフを大男の首に押し付ける。
少しでも大男が動けば、皮膚が裂けるだろう。