zinma Ⅲ
「……………ダグラス………」
気がついたらそうつぶやいていた。
いつの間に自分が立ち上がったのかもわからない。
ただ、なぜかその名前をつぶやいてしまっていて。
そして後ろを振り向く。
そこにはレイシアに向かって剣を振り下ろそうとする男と、険しい顔でこちらを見つめるレイシアがいた。
「…………ダグラス………」
今度ははっきりと、そうつぶやく。
すると男が、動きを止める。
そしてこちらを見て、目を見開く。
驚いたような、泣きそうな顔でシギを真っすぐに見つめている。
「…………カ……カリア………?」
なぜか男が母さんの名前をつぶやく。
まだ動きの遅い脳は、ただその言葉に疑問を覚えただけだった。
レイシアが弾けるように動き、男の剣を弾いて足を払う。
そしてすごい速さでシギを抱えて、窓から飛び出す。
「やはり、カリアの記憶が反応したようですね。
いつかは来ると思っていましたが…
とりあえず今日は一旦引きます。
おとなしく眠ってください。」
王城の庭園を駆けながら、レイシアがそう言う。
すごい速さで宿舎が遠退いていく。
薄れていく意識の中で、最後までこちらを見ていたあの男の顔だけが、頭に焼き付いた。