zinma Ⅲ
窓から差し込む強い日差しに、シギは思わず顔をしかめた。
ゆっくりと身体を起こしていく。
ベッドが軋み、それと同じように頭もずきずきと痛む。
頭を押さえながら見回してみると、そこは宿の部屋だった。
日の高さからして、もう昼ごろだろうか。
部屋の隅では、レイシアが椅子に腰掛けて紙の束を真剣に読んでいる。
「………師匠、私は……」
「目が覚めましたか?」
シギの言葉を遮って、紙から顔を上げないままレイシアが聞く。
シギがそれにうなずくとレイシアは紙を椅子に置いて立ち上がり、シギのいるベッドへ近づく。
隣にあるベッドに腰掛けるレイシアをシギが見つめていると、レイシアが口を開く。
「ダグラス・ディガロ。
聖騎士軍の王道支部を任された大佐です。」
それに一気に昨晩の記憶が蘇る。
「………母さんが、急に頭に現れて、それで、彼の名前を呼んでいたんです。」
シギがそう言うと、レイシアは考え込むような悩むような顔で目を閉じて天井をあおぐ。
「それは……おそらくあなたの頭に無理矢理入れたご両親の魔術や『選ばれしヒト』の知識に、わずかながら彼らの記憶も残っていたのでしょうね……。
それが、あの宿舎を見た途端に反応して蘇ったというところでしょう。
王都、とくにあの軍の宿舎は彼らにとって最も強く記憶に刻まれた場所ですからね。
いろんな意味で……」
それに昨日頭に浮かんだ映像をもう一度思い起こしてみる。
久しぶりに見る母さんの姿に、喉が熱く痛むのを感じるが、目を強く閉じてこらえる。
「…あのディガロ大佐とかいう人は明らかに母さんを知っていました。
そして母さんも……
私の両親の死に彼が関与している可能性もあるんですかね…」
そうつぶやくシギにレイシアが目を細める。
「……なぜ?気になるんですか?
それを知ってどうするつもりです?」
それにシギはレイシアの目を真っすぐに見つめ返して言う。
「知りたいだけです。
父さんと母さんのことを、もっと。」