zinma Ⅲ
シャムルは相変わらず賑わっていた。
シギはまたゆっくりと歩きながら、公園へと向かっていた。
公園はやはり花の良い香が漂っていて、美しい花畑と噴水に彩られ、多くの恋人たちや子供たちの憩いの場となっていた。
あるベンチに座ると、シギはゆっくりと目を閉じた。
もう昨日のような頭痛もなく、清々しい気持ちでいられるはずなのに、どうしても心は晴れなかった。
父さんと母さんは、この公園を歩いたことがあったのだろうか……
いまシャムルを歩いてみて、わかった。
自分の中のふたりの記憶が反応するのは、やはり軍の宿舎だけのようだ。
ならば、ふたりはこの穏やかななシャムルの光景を見ることは、本当になかったのかもしれない。
ずっと軍で働いていたのかもしれない。
どんな気持ちであったのだろうか。
ただ、ただ、指令をもらい、人を殺すだけの戦場に向かう毎日。
そこであのディガロ大佐の顔が思い浮かぶ。
こっちを見て泣きそうになっていた顔。
記憶の中で、母さんを尊敬するように笑っていた顔。
彼は、母さんをよく知っているのだろうか。
軍にいたころの、母さん。
もしかしたら父さんも知っているのかもしれない。
どうしても、彼に会って話がしたかった。
父さんと母さんのこと。
そして、ふたりの死ぬまでのこと。
シギは後頭部でまとめた紺色の髪を解く。
真っすぐの長髪が、さらりとこぼれて風になびく。
髪を風に遊ばせたまま、シギは髪をまとめていた髪紐を握りしめる。
きらきらと輝く髪紐。
シギの愛する人が作ってくれた髪紐。
もし、父さんと母さんが生きていたのなら、彼女を、愛するルシールを、紹介してやりたかった。
目頭が熱くなり、のどが締め付けられる。
それを隠すようにシギは瞳を閉じて、空を仰ぐ。
背中をベンチにあずけ、息をつく。
髪紐はなぜか、暖かい気がした。