zinma Ⅲ





シャムルは相変わらず賑わっていた。

シギはまたゆっくりと歩きながら、公園へと向かっていた。



公園はやはり花の良い香が漂っていて、美しい花畑と噴水に彩られ、多くの恋人たちや子供たちの憩いの場となっていた。




あるベンチに座ると、シギはゆっくりと目を閉じた。




もう昨日のような頭痛もなく、清々しい気持ちでいられるはずなのに、どうしても心は晴れなかった。



父さんと母さんは、この公園を歩いたことがあったのだろうか……


いまシャムルを歩いてみて、わかった。

自分の中のふたりの記憶が反応するのは、やはり軍の宿舎だけのようだ。



ならば、ふたりはこの穏やかななシャムルの光景を見ることは、本当になかったのかもしれない。


ずっと軍で働いていたのかもしれない。




どんな気持ちであったのだろうか。




ただ、ただ、指令をもらい、人を殺すだけの戦場に向かう毎日。






そこであのディガロ大佐の顔が思い浮かぶ。


こっちを見て泣きそうになっていた顔。

記憶の中で、母さんを尊敬するように笑っていた顔。



彼は、母さんをよく知っているのだろうか。

軍にいたころの、母さん。

もしかしたら父さんも知っているのかもしれない。





どうしても、彼に会って話がしたかった。



父さんと母さんのこと。


そして、ふたりの死ぬまでのこと。








シギは後頭部でまとめた紺色の髪を解く。


真っすぐの長髪が、さらりとこぼれて風になびく。



髪を風に遊ばせたまま、シギは髪をまとめていた髪紐を握りしめる。

きらきらと輝く髪紐。

シギの愛する人が作ってくれた髪紐。



もし、父さんと母さんが生きていたのなら、彼女を、愛するルシールを、紹介してやりたかった。




目頭が熱くなり、のどが締め付けられる。




それを隠すようにシギは瞳を閉じて、空を仰ぐ。


背中をベンチにあずけ、息をつく。





髪紐はなぜか、暖かい気がした。





< 145 / 364 >

この作品をシェア

pagetop