zinma Ⅲ
「…………あ………」
丘の頂上に近づいたとき、思わず言葉を失った。
動きを止めて、ただ目を離せずにベンチを見た。
白く塗られたベンチとは対称的な紺色。
風にさらさらとなびくつややかな長髪は、紺色に輝いていた。
あの輝きは、昔と変わらない。
ゆったりと座って、空を見上げている。
髪の隙間から一瞬見えた横顔は、紛れもなくカリアだった。
自然と、足が前に進む。
すると、彼女が不意にこちらを振り向く。
驚いたような顔になる。
しかしディガロもさらに驚いた。
彼女の瞳が、金色だった。
だがあの瞳も覚えている。
彼女の大切な人。
私にとっても大切な人。
カリアと同じように好いていた人。
彼女の顔も、あのころより幼く、そしてどこか彼の面影もある気がする。
「……き、君は……………」
そうつぶやくのとほぼ同時に、目の前の幻もつぶやく。
「……ダグラス……ディガロ……」
そして目を細める。
まだ言葉を発せないディガロをよそに、つづける。
「……あなたは母さんを………カリア・サンを…知っていますね。」
シギはまっすぐにダグラスを見て言った。
ダグラスはしばらく目を見開いて固まっていたが、なんとか震えている声で小さく言う。
「……え?…ならば、君は…」
「私はカリアの息子です。」
遮ってそう言うと、ダグラスはまた驚いたように言葉を無くす。
それにシギは畳みかけるように言う。
「私の母はカリア・サン。
父はファギヌ・サンです。
ご存じでしょう?」
最後まで両親の名前を言った途端に、ダグラスの瞳から一筋の涙が流れ落ちる。
「父と母は死にました。
それもあなたはご存じのはずです。
教えてください。
2人について。
彼らを素晴らしい兵士として慕っていたあなたなら、ご存じでしょう?」