zinma Ⅲ



それからまたうつむき、笑う。

「ふ、まあ君には北の街道で人狩りをしていたのを見られているから、綺麗事は言えないな……。」


それにシギは顔を歪める。


ダグラスは、とても酷い人間には見えなかった。

少なくとも、あの軍に染まっている気はしない。


しかし、やっていることは酷い。


「…あなたの意志ではないんですか?」



それにダグラスはふっと笑ってから、手の平で顔を拭うようにする。


「…さあな。
どっちにしたって最低なのには変わりないさ。

刃向かう勇気さえない、臆病者だよ。」



それにシギは一気に心がほぐれていくのを感じる。


ダグラスは信用できる人間だと思った。

それが母さんと父さんの記憶からくる気持ちなのかもしれないけれど、それに賭けてみる価値はある。



「…軍のことは、師匠がなんとかすると思います。

きっと大丈夫ですよ。」


普通なら反逆罪に問われそうな問題発言をする。

それにダグラスはぎょっとしたように目を見開き、しかしシギが心を許したのを感じたのか、嬉しそうに笑った。


「…は、ははっ。

師匠というのは、昨晩君といた不思議な青年か?」


それにシギがうなずくと、今度こそ楽しそうにダグラスが笑う。


「ははは。
確かに彼なら軍相手でもやっていけるかもしれないな。

恐ろしいほどの戦闘能力だ。

正直あのまま戦っていたら、私は確実に負けていただろう。」



それにシギは自分のことのように誇らしくなる。

ダグラスはまだ知らないが、レイシアはシギの両親の自慢の弟子なのだ。


しかしそれはまだダグラスには言わない。

レイシアを、あまり人間の世に印象付けてはいけないのだ。



「……しかし、師匠が人々を助けるかどうかは別です。」


「どういうことだ?」


ダグラスが聞き返すと、シギは少し考えこんでからひとつひとつ言葉を選ぶように、ゆっくりと話しはじめる。




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