zinma Ⅲ
「………師匠は、人を守ることには興味はありません。
人間の小さな争いについて、いちいち悩んだりはしない。
師匠にとってそれは、あまりにもくだらないことだから。
師匠が軍に手を出すのは、他の目的のためなんです。」
それにダグラスが少し怪訝な顔をする。
「他の目的?
それにその言い方だと彼はまるで…」
しかしそれをシギが遮る。
「あなたが軍の他の人間のような酷い人でないことはわかりました。
私はただ、あなたに両親のことを聞きたいんです。」
そのシギの真っすぐな目をダグラスは受け止める。
思慮深そうな碧眼に、シギの顔が写っている。
「………ああ、君のご両親は、素晴らしい兵士だった。
軍のだれも、2人には敵わなかった。」
そしてダグラスは遠い昔を思い出すように、空をあおいで微笑む。
「それは決して彼らが特別な力を使うからではなかった。
彼らは極力、ルミナ族の力を使おうとはしなかったんだ。
力を人殺しに使わないことが、ルミナ族の誇りなんだ、と言っていたな…」
それにシギは手を握りしめる。
「どんな戦況でも、彼らは被害を最小限にしながら必ず勝利へと軍を導いた。
はじめは彼らがルミナ族というだけでひどいあしらい方をしていた兵士たちも、いつの間にかいなくなった。
私はまだあの頃は新米の兵士で、まともに戦うこともできず、どこかの見張りくらいの役しかもらっていなかった。
彼らは私の憧れだったんだ。
ある日私はカリアに話しかけたんだ。
私に戦闘訓練を施してくれないか、と。」
その言葉にシギがダグラスを見る。
ダグラスも空からシギへと視線を戻し、わずかに微笑む。
「カリアははじめは驚いた顔をしていたよ。
でも快く受け入れてくれた。
任務や訓練の合間に、私の相手をしてくれて。
途中からファギヌも私の訓練に付き合うようになった。
その頃には、2人は愛し合うようになっていたんじゃないかな。」