zinma Ⅲ
穏やかな風がふく公園の一角の丘で、沈黙が流れる。
「…………そうですか。」
シギはそれだけ言って黙り込んでしまった。
うつむいているせいでその表情は見えないが、シギからは悲しみとも怒りともとれない、静かな雰囲気が放たれていた。
ダグラスはシギの目の前に立ったまま、悔しげにうつむいていた。
「……この小刀は……」
突然シギがそう声を漏らすので、ダグラスは顔を上げてシギを見る。
「この小刀は、受け取ります。
絶対に使わない。
しかし、生死の場面へは私は必ず関わらなければいけないんです。
この旅を続ける限り、師匠と共に歩む限り、私はたくさんの死を見届ける必要がある。
それは酷い道なのかもしれませんが、しかしそれが私の天命なんです。
ルミナ族として生まれ、父さんと母さんの息子として生まれ、最後のルミナ族となった私の。」
そこでシギは立ち上がる。
「私は私のために、きっと気づかないうちにたくさんの命を足蹴にしながら進みます。
しかしだからと言って立ち止まるつもりはありません。
立ち止まったら、それこそ私のために消えていったたくさんの命を無駄にすることになる。
だから私は進む。
旅を続ける。」
そして手に持った小刀を懐にしまい、胸に手を当てて神に誓うかのように服の上から小刀を触る。
「私はこの小刀を、そのたくさんの命のことを忘れない誓いとして持っておきます。
その命のことをわかったうえで戦うんです。」
そしてダグラスの瞳をまっすぐに見据える。
驚いたように固まっているダグラスを射抜くように見て続ける。
「あなたの条件は守れそうにありません。
両親の知人は自分で探します。」
シギは一度ダグラスに礼をして、踵を返す。
しかしその場を離れようとして、ふと足を止める。
まだ驚いたような様子のダグラスのほうを振り返り、言う。