zinma Ⅲ
「……あなたがいままでたくさんの人の命を奪ってきたんだとしても、私の両親は何も言わないと思います。
ただ、あなたはその生き方に誇りを持たなければならない。
これからの人生を、誇り高く生きなければならない。
あなたはあなたが殺した人々の屍の上を歩いているんですから。」
それにダグラスを言葉を失い、瞳を揺らす。
シギはいつもの無表情から穏やかな微笑みに変えて、言う。
「あなたは、良い兵士になる。」
シギのその言葉に、ダグラスがまた今にも泣きそうな顔になる。
それをなだめるようにシギは少年らしい、無邪気な顔で笑う。
「母さんの保証付きでしょう?」
その言葉を残して、今度こそシギは踵を返して去って行った。
ダグラスはしばらくそこに佇んだまま、去って行くシギの後ろ姿を見つめていた。
解いたままのシギの紺色の髪が風に流れるのを、ただただ見つめて。
どのくらいそうしていたのか、シギの後ろ姿が見えなくなってからダグラスはベンチに座り直した。
今起きた出来事がまるで夢だったかのような、妙な浮遊感のようなものに襲われていた。
「誇り高い……生き方か………」
小さくそうつぶやいて、ダグラスは手を握りしめる。
そして手を開き、その手の平をじっと見つめる。
カリアが消えて、ファギヌも消えて、ずいぶん汚れてしまった自分の手。
たくさんの人間の血を浴びてきた手。
ただ事務的に任務をこなしてきたこの数年で、あのころの自分をずいぶん忘れていた。
良い兵になるという目的が、いつの間にか良い地位に着くという目的になっていた。
そのための、殺しだった。
開いた手の平を自分の爪でえぐるように、強く強く握りしめる。
ダグラスは立ち上がり、背筋を伸ばしてまっすぐに歩きはじめた。
向かう場所は、はっきりと決まっていた。