zinma Ⅲ

天使の嘲笑






路地裏にある闇市で新しく購入した数本のナイフを懐に忍ばせて、レイシアはシャムルの町並みをゆったりと歩いていた。


昨晩の黒装束からまた貴族風の服へと着替えたその姿は、まさか武器を持っているとは思えない高貴な雰囲気を放っていた。





レイシアは慣れた足取りで入り組んだ街路を進む。


足を止めることなくレイシアは真っすぐに、水道のように石で整備されていない、小川のほとりへとやってきた。



草の生えたゆるやかな勾配が小川へと続いていて、そこへ腰を降ろす。



静かに懐から一枚の紙を取り出す。



昨晩軍から盗んできた書類の一部。


シギに見せていないページだ。


シギに書類を渡すときに、気づかれないように抜き取ったページ。



「………。」



シギが眠っている間から、何度も見つづけているページをまた見返しながら、レイシアは少しだけ眉をひそめる。







『西の村、クトルへの出兵報告書。』






その報告書には、他となんら変わりのない出兵兵士の数や目的が綴られていた。


『出兵兵:100
目的:状況観察
出兵期間:3ヶ月』


それはなんの変哲もない普通の小さな村への出兵記録のようにも見える。


しかしいくつかの報告文の一番下。


任務完了報告がおかしかった。









『帰還兵数:0
完了報告:村民全滅』













帰還した兵士もいないうえに、村民もだれも生き残らなかったという。


ただの現状確認の出兵のはずなのに。



さらにその備考欄には、


『山賊の奇襲に会い、応戦。
山賊の撃退は完了するものの生存者0。』


と書いてある。




だがこれもおかしい話だった。


生存者がいないのに、なぜ山賊の仕業だとわかったのか。

相打ちなんていうことが有り得るのか。

なぜ世界を牛耳っている力を持つ軍が、たかが山賊ごときに皆殺しにされるのか。



しかしレイシアが気にしているのは、そんなことではなかった。




< 157 / 364 >

この作品をシェア

pagetop