zinma Ⅲ
それにナムは一度顔を上げ、またうつむく。
「……たしかに、いままでで一番怖い経験でした。」
しかしそこまで言ってナムは顔を上げ、笑顔になる。
「でも一番楽しい経験でもあるんです。
レイシアさんがすごく強くてかっこよかったし、シギさんのおかげであんな高いところにも登れたから。」
と言ってナムはおどける。
それに微笑を浮かべるレイシアを見つめ、ナムは言う。
「それに……ちゃんと助けに来てくれましたから。
なぜか、きっと2人が助けに来てくれるって、信じきってたから諦めずにすみましたし。」
レイシアはにっこりと微笑むと、
「それなら、よかった。」
と言う。
それから続ける。
「実はあのとき、この部屋にいたんですよ。」
それにナムが、
「この部屋に?」
と聞き返すと、
「ええ。シギに聞いたかもしれませんが、私は酒場で情報屋に会いまして。
この部屋に移動して話を聞いていたんです。
あんな人が大勢いる酒場の中で情報を話したから、情報屋も商売になりませんからね。」
それにうなずきながらナムは話を聞く。
「そしたらすごい叫び声が聞こえてきたものですから、下に降りてみたらあの状況です。
そのときはシギも部屋に来てましたから、2人で気づかれないように宿泊客を逃がし、シギにお使いを頼んで、酒場へ行ったわけですよ。」
と、おどけたようにレイシアが話してくれるので、ナムの中のあの時の記憶も笑い話に思えてくる。
レイシアに心の中で感謝をし、聞く。
「そういえば、シギさんのお使いはなんだったんですか?」
それにレイシアが答える。
「まずさっきのロープを持って来ることと、あともうひとつ……」
とそこで、酒場の外が騒がしくなる。
それに窓のほうを一瞥してからレイシアは笑い、
「どうやらちょうどそのお使いがやって来たようですね。」
と言う。