zinma Ⅲ
レイシアはゆったりと座っていた。
少し小高い丘の上にある、白いベンチ。
その脇に立つ少し高い木。
その木の上のほうの枝にレイシアは腰を降ろして、買ったばかりのナイフの手入れをしながら、下へと意識を向けていた。
木の下ではダグラスとシギが2人で過去のシギの両親、つまりレイシアの師匠たちについて語り合っていた。
足元ではシギが、
「…軍のことは、師匠がなんとかすると思います。
きっと大丈夫ですよ。」
と言っていて、
「はは、言ってくれますね。」
とレイシアは小さく笑う。
完璧に気配を消し、音も立たないように魔術を使ったレイシアのことに2人とも気づいていないようで、会話をつづけていた。
そのうち会話が展開して、シギがダグラスに別れを言って去って行った。
ナイフの手入れに集中しながら、
「誇り、ねぇ。
彼もなかなか良いことを言いますね。」
とレイシアは悠長につぶやく。
すると下で呆然としていたダグラスが、考え込むようにベンチに座る。
それを横目で見下ろしながら、レイシアは興味がないようにあくびをした。
実際に興味はなかった。
さっきシギも言っていたが、人間の小さな行いにはレイシアはまったく興味がわかないのだ。
争いを続ける人間。
力を求める人間。
ただ目の前の出来事に、一喜一憂する人間。
すべて、馬鹿らしい。
何をしたって、結局世界には闇が息づいているのに。
しかし自分の中にもまだ人間の部分が残っていることを思い出して、レイシアは自嘲するように小さく笑った。
そうしているうちにダグラスが突然立ち上がり、歩きはじめる。
それを確認するとレイシアはナイフをしまって、座った姿勢のまま器用にそのまま飛び降りる。
ふわりと地面に降り立ち、音を消す魔術を解いて、少し前を進んでいく男を呼び止める。
「ダグラス・ディガロ大佐。」