zinma Ⅲ





名前を呼ばれてダグラスは立ち止まった。



振り返ると、なぜかさっきまで自分がいた場所に昨晩の青年が立っていた。


あまりの出来事になかなか反応できず、

「いつの間に………」

なんて我ながら馬鹿みたいなことをつぶやいてしまう。



青年もそれを感じとったのか小さく笑うだけでそれに答える。


その微笑みはやはりとても穏やかで、見た目の年齢とは裏腹に雰囲気は年齢不詳といった感じで、天使だと言われたら納得してしまいそうだった。


昨晩は切羽詰まった状況で、なおかつカリアにそっくりな青年へ意識がいっていたので気づかなかったが、目の前の彼は輝かんばかりの美貌を持っていた。


北の街道で会ったときも思ったが、よくよく見ればその美しさは異常だった。




「あなたに、聞きたいことがありまして。」



少し高めの青年の声に意識を戻され、ダグラスはやっとそれに反応する。


「……聞きたいこと?」



見知らぬ青年なうえに、昨晩軍に忍び込んだほどの犯罪者であるにも関わらずダグラスはついそう答えた。


青年はそうさせる雰囲気を放っていたのだ。



「ええ、たったひとつなので、すぐ終わります。」



青年はこちらとの距離を保ったまま、そう言う。


ダグラスが次の言葉を待っていると、青年が雰囲気をがらりと変える。


穏やかな雰囲気から、無になる。


底のない、笑み。


見た目は変わっていないはずなのに、なぜかそれがわかる。




「あなた、彼に何がしたいんです?」




それにダグラスは意味がわからなくて目を細める。


それにレイシアが微笑みを口だけに浮かべて続ける。



「彼、カリアとファギヌの息子である彼に、何がしたいのかと聞いたんです。

なんの目的で彼を気にするんです?」


それにダグラスが口を開こうとすると、レイシアがそれを遮って続ける。


「カリアの息子だから?

でも結局彼は他人の子供です。
カリアがあなたにとってなんであれ、他人です。」




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