zinma Ⅲ



言おうとしていたことを読みとったかのように言われ、ダグラスはつい黙り込む。


青年はただそれを静かに待っている。



しばらくして、ダグラスは口を開いた。




「……そんなこと、はっきりとした答えはない。

ただ彼が気になる。

それだけじゃだめか?」


はっきりとそう言ったダグラスに、青年はにっこりと微笑む。


まだ、からっぽの笑み。


少し強くなった風に揺れる木の葉の音が、やけに耳につく。



風のざわめきに、青年の小さな笑い声が混ざる。




「はは、は、ははは。

あなたという人は、なんと人間くさいんでしょうね。

あなたは本当に人間だ。
どこまでいっても人間くさい。

曖昧で、論理的でなくて、正義感だけは強い。」



それにダグラスは背筋が凍る思いがした。


目の前のまがまがしい天使に、恐怖を感じたのだ。



「そう、そうですか。
これだけははっきりさせなければならないので、聞きました。

具体的な理由よりも、人間くさい理由のほうが信用があるでしょう。」


そこでやっと青年がこちらへと一歩ずつ近づく。




「あなたは、踏み込んではいけない場所へと踏み込もうとしている。

私たちに関わるということは、そういうことです。

あのルミナ族はまだ人間くさいんですよ。

だが彼はまだ実感できていない。

私たちがいる世界のことを。」



一歩ずつ近づく。



「もう戻れない。
彼はもうこちら側の人間です。
彼がそれを選んだから。

ならば彼に触れようとするあなたも、当然こちら側の人間になる。

できますか?
あなたはこの世と決別できますか?」



一歩。



「あなたはこれから軍の本部へ向かうつもりだったのでしょう?

虐殺について抗議でもしようと。
彼のために。
彼の言う誇り高い生き方をするために。

ですが、それをすれば、あなたはこちら側の人間になる。

軍を辞めて、私たちを追うつもりだったんでしょう?」





ダグラスの、目の前へ。







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