zinma Ⅲ
「はは、人間の考えることは本当に単純でわかりやすい。
特にあなたのような人間の中の人間はね。」
そこで青年は突然ダグラスのベルトの背中側へと手を伸ばす。
ダグラスは動けない。
目の前の大きな存在に、情けないながら、威圧されてしまって。
青年はそこから、ダグラスが隠し持っていた昨晩青年が置いていった数本のナイフを取り出す。
「返してもらいますね。」
そう言って青年が悠長にナイフをしまう間も、ダグラスは固まったまま。
冷たい汗が、背中をつたっていく。
「ゆっくり、考えてください。
あなたは人間だ。
まだ、ね。
カリアたちの辿った運命に続きたくなければ、大人しく軍におさまっていたほうが良いのでは?」
そう言って微笑み、青年はダグラスの横を歩いていく。
カリアたちの、運命………?
すれ違う瞬間、青年が言う。
「ではまた今晩、王城で。」
やっと解放された瞬間、ダグラスは後ろを振り向く。
しかしそこにもう青年はいなかたた。
真っすぐに伸びる小道と、開けた公園。
死角などないはずなのに、彼はもういない。
まだうるさく跳ね上がったままの心臓を抑え込むようにして胸を手で押さえ、ダグラスは膝をぬかす。
「はっ……はっ………はっ……」
荒く息をして、顔から噴き出す嫌な汗をぬぐう。
しばらくしてやっと、ふらついた足取りで立ち上がる。
するとさっきまで座っていたベンチに、紙の束が置かれていた。
ゆっくりとそれに近づき、ダグラスはそれを手に取る。
それはある軍の重要機密書類で。
西に関する報告書で。
あの青年が置いて行ったのだろう。
ダグラスはその書類を握りしめ、唇を噛んだ。