zinma Ⅲ
彼の命の先
シギが宿に戻ると、すでにレイシアは部屋の中でくつろいでいた。
ベッドに仰向けに寝転がり、本を読んでいる。
「師匠、早かったですね。」
そう言って部屋に入るシギに、レイシアは身体はまったく動かさないまま声だけで答える。
「ええ、いくつか用を済ませただけですから。」
それを聞きながら、シギは部屋の隅のいすに腰を下ろす。
「師匠、今晩は王城へ忍び込むんですよね?
準備をしなくても?」
それにまたレイシアは身動きしないまま、
「必要ありません。
簡単ですから。」
と答える。
それにシギはひとつため息をついて、
「しかしそれならばせめて策を教えていただかないと……」
と言うと、レイシア驚いたように顔だけシギのほうを見る。
「いえ、今晩はあなたを連れて行くことはできません。」
そう言うレイシアにシギが拍子抜けな顔をする。
レイシアはまた視線を本へと戻し、そのままで口を動かす。
「あなたが王城へ行けば、またいつカリアとファギヌの記憶が暴れだすかわかりません。
さすがにあなたを守りながら進むのは厳しいので……
あなたはお留守番です。」
それにシギが不満げに口を開こうとするので、レイシアはそれをさえぎるようにして言う。
「あなたには別にやってもらうことがあるんですよ。」
それを聞いてシギが口を閉じる。
その様子を感じとったようにレイシアは身体を起こし、ベッドの縁に座る。
シギのほうをまっすぐに見つめる。
「あなたにやってほしいことはただ1つ。
まずはそのカリアたちの記憶を手なずけてください。」
「手なずける……?」
レイシアはうなずく。
「はい。
記憶に潜って、まだ今回のように解放されずにいた記憶を解放してください。
そうすれば頭痛に悩むこともありませんし、おそらく『選ばれしヒト』についての知識を得ることにもなる。
そうすれば私に着いて旅をするのが多少は楽になるでしょう。」
シギはうなずきながらそれを聞く。