zinma Ⅲ
シギは両親から『選ばれしヒト』についての知識を受け取っていたのだが、それはまだシギの身に着いてはいなかったのだ。
「あなたはこれからどんどん変化していく私に着いてこなくてはならないのですから、そのほうが良いでしょう。」
そう言うレイシアにうなずいて、シギは聞く。
「それだけでいいんですか?」
「それだけ、で済むといいですね。」
それにレイシアが立ち上がり、部屋にひとつだけの窓へと近づく。
窓際まで近寄ったところでレイシアが振り向くと、その手にはいつの間にか一枚の紙が握られていて、それをシギに見せるように掲げる。
「なんですか?」
シギがそう聞くと、レイシアは魔術でふわりとシギへとその紙を飛ばす。
それをシギが受け取ったのを確認すると、レイシアはすらすらと説明する。
「彼の名前はラムール・モア。
ある程度の情報は集めておきましたよ。」
「ラムール………」
シギはそうつぶやいて渡された紙に視線を落とす。
そこにはそのラムールという人物の容姿の特徴や仕事、住所などが書かれていて。
しかしそれに目を通しても、本当になんの変哲もないただの老人のようだった。
「師匠、この老人は?」
シギが顔を上げてレイシアに聞くと、レイシアはシギの持っている紙を指差して言う。
「それ、あなたがいま一番会いたい人ですよ。」
それにシギが怪訝な顔をする。
「しかし私はラムールなんて人は始めて………っ!」
そこまで言ってシギは頭を押さえ込む。
また激しい激痛。
目がくらむほどの痛みに顔をしかめながら、なんとか言葉をつむぐ。
「…ぅ、あ………こ、この頭痛は……」
それまでそのシギの様子を変わらぬ様子でゆったりとながめていたレイシアが口を開く。
「えぇ。彼はカリアとファギヌの知り合いです。
それも特に親しい仲でした。
ダグラスさんから聞いたでしょう?」
頭を押さえたままやっと顔を少し上げ、レイシアを見つめてシギが言う。
「な、ぜ………師匠が……」