zinma Ⅲ


「カリアから聞いていたんですよ。

もしも王都に行くことがあれば、ラムールという老人を探してほしいと。」



「母さんから……?」


レイシアの言葉にシギが痛む頭を押さえながら、思わず声をあげる。



「あなたのご両親が亡くなったときに私に遺言を残した話はしたでしょう?

あの中にあったんですよ。」


レイシアはというとなぜか感心のないかのように楽そうに腕を組んで壁にもたれている。

口調もどこか空虚で、冷たさを感じる。




「………師匠、何か怒ってます?」



シギが思わずそう聞くと、レイシアは腕を組んだままにっこりと微笑む。


「それもあなたが『選ばれしヒト』のことを知ればわかります。」



それにシギが口を開こうとしたところで、


「だからあなたに早く『選ばれしヒト』のことを知ってもらわないと困るんですよ。

今晩私はまた少し変わると思いますので。」


と、レイシアが畳み掛ける。



しばらく黙り込んでから、シギが聞く。


「……今晩、師匠に危険は及びますか?」



レイシアは小さく笑う。


「はは、危険?
そんなものを気にしたことなんて、何年ぶりか……」



レイシアは右手をあげる。

比較的色白な腕。



「私は危険なんて気にしない。

人間が危険を気にするのは、命を守るためだから。」


その意味深げな物言いにシギが聞く。



「では師匠は命を捨てる覚悟があると?」





レイシアはそれに微笑むだけで返し、またベッドへと戻る。


「では私は今晩のために少々寝ます。」


そう言うとレイシアはすぐにベッドに倒れ込み、静かになる。


シギもそれを見届けると自分のベッドへ行って仰向けになり、瞳を閉じる。



レイシアには謎が多い。

もしも記憶を手にしたら、レイシアのことを知ることができるのだろうか。



両親から受け継いだ記憶にアクセスする。



するとまたひどい激痛が頭に走る。



「…………っ!」

声にならない悲鳴をあげて、すぐに意識を飛ばしたのだった。





< 166 / 364 >

この作品をシェア

pagetop