zinma Ⅲ








シギは勢いよく起き上がった。



ひどく嫌な汗をかいている。





跳ね上がる鼓動と荒い息を落ち着かせながら、まわりを見回す。




そこはいつもの宿の部屋で、窓の外の景色はまだ日が高く昼間であることを示している。


隣のベッドではまだレイシアが静かに眠っていて。



そのレイシアに目を留めて、シギはまた鼓動がうるさく鳴るのを感じた。



いまの夢。

父さんと母さんの記憶。



その中で言っていたのだ。

『選ばれしヒト』の義務について。



『選ばれしヒト』は神に人間の命を差し出していると、夢の中で言っていた。

そして『選ばれしヒト』は最期には、『選ばれしヒト』の力を神に返さなければならないのだと言っていた。






『選ばれしヒト』は、『選ばれしヒト』の命によって生きながらえているというのに。









じゃあ、このシギの隣で静かに寝息をたてている人間は、いつかその存在を神に捧げなければならないのだ。


たとえ『選ばれしヒト』の義務を果たしても。




彼にその先は、ない。






彼はいま自分の死に向かって、いつか死ぬためだけに、毎日苦しめられながら歩いているのだ。



レイシアは人間にしか見えないのに。

レイシアは生きているようにしか見えないのに。



人間としての彼は、本当は産まれた時点で命を失っているのだ。

人間のレイシアはもうこの世にいない。







ふらりとレイシアに近寄りかけたところで、またシギを頭痛が襲う。


またシギがベッドに倒れ込んだところで、入れ替わるようにレイシアがゆっくりと起き上がる。



少し乱れた髪をかきあげながら、レイシアは小さく微笑む。


「かなり知識が馴染んできたみたいですね。

あと少し。あと少しです……」




レイシアの声がだんだんと遠退くのを感じながら、またシギは意識を失った。










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