zinma Ⅲ
そのころ、王城の4階。
「突然ですまないな、ディル。」
「いえ、気になさらないでください。」
真っ赤なカーペットが敷き詰められた長い廊下を、ダグラスとディルは歩いていた。
ディルはいつものように綺麗に整えられた執事服を着ていて、ダグラスはいつもの軍服よりも高価な、装飾がいくつもついた正装を着ていた。
ダグラスはいま軍の本部へと向かっていた。
目的はもちろん、任務放棄の申請とそして………
「………大佐、何をなさるおつもりなんです?」
ディルがひどく不安げな面持ちでダグラスを見つめる。
それにダグラスが足を止め、ディルも一歩下がったところで止まる。
ダグラスはディルを真っすぐに見つめる。
「……私は、任務を放棄しようと思っている。
その申請をしに行くんだ。」
それにディルが驚いたような、責めるような顔をする。
「………ほ、放棄ですか?
それはまた、なぜ………」
ダグラスは固い表情を崩すことなく続ける。
「もう、意味なく人を殺したくないんだ。
虐殺をしたくない。
ただ、それだけだ。」
ディルはしばらく真剣な顔で黙り込み、うつむく。
ディルは良い部下だった。
いつもダグラスに尽くしてくれたし、どんな仕事でも卒無く、完璧にこなした。
いつも優しげに微笑み、嫌な仕事も文句も言わず片付けて。
まだ20にもならない若い青年には、確実に輝く未来が待っている。
「ディル。」
ダグラスがそう呼ぶと、ディルは瞳に涙をためた顔をあげる。
それに小さく笑い、ダグラスはディルの頭を軽く叩く。
「私は今回のことで軍を追放されてもいいと思っている。
お前は優秀だ。
私がいなくても、やっていけるさ。」
そう言ってダグラスはまた振り返り、廊下を進む。
ディルも大人しく着いて来るのがわかる。
「…………大佐。」
「んー?」
「大佐に何があっても、私は最後まで大佐の部下です。」
「………ああ。」