zinma Ⅲ
そこで廊下の突き当たりにある、少し大きめのドアにたどり着く。
この先には、世界中にいる軍のすべてを統括している男がいるはずだった。
ダグラスは一度姿勢を正し、深呼吸をする。
後ろでディルも緊張しているのが伝わってくる。
大きく息を吐くき、気を引き締める。
「…………行くぞ。」
ドアを数回、ノックする。
「入れ。」
すぐ返ってきた低い男の声に、妙な汗が背中をつたうのがわかる。
「…失礼します。」
ディルがそう言ってドアを開けてくれる。
ゆっくりと開くドアを見送って、ダグラスは一礼。
「王家専属軍、王都市部所属のダグラス・ディガロ大佐です。」
顔を上げた先には、広い部屋の真ん中に置かれた大きな机があって。
そこに一人の男が座っていた。
キニエラ族らしい金髪を少し伸ばして、丁寧に首の後ろでまとめている。
鍛えあげられた鋼のような身体が、階級の高さを現す軍服の下にわかる。
机の上の書類を処理しながら、近寄るようにと片手で合図する。
ダグラスが近寄り、ディルがドアを閉める間もまったく顔を上げることなく、仕事を続ける。
「突然の訪問、申し訳ありません。ドープ元帥。」
ダグラスがそう言うと、そこでやっとドープと呼ばれた男が顔をあげる。
静かだが、切れ長の力のこもった黄緑色の瞳。
ダグラスの、深みのある穏やかな瞳とは対照的な印象を与える。
40代後半ととれる初老のその顔には、威厳のあるシワが刻まれていた。
「早朝に訪問をキャンセルしてまた突然夕方に訪問の約束を入れるのは、確かに礼に反するというものだ。」
低い、重量感のある声。
「申し訳ありません。」
そう言うダグラスに、ドープは薄く笑う。
「冗談だ、気にするな。
君の評判は貴族の方々からよく聞いているからね。
それに免じて許そうじゃないか。」
それにダグラスはドープにわからない程度に拳を握りしめる。
貴族からの評判。
どうせ人狩りのことだろう。