zinma Ⅲ
ドープとダグラス、部屋で2人きり。
もしものときのために、ダグラスはあとのことをディルに任せていた。
今までにも軍の本部へこういった物申しをしに行った兵士もいないわけではない。
だが、彼らはもういない。
だれ一人として帰ってきていないのだ。
このドープという男に反抗しようものなら、命を差し出さなければならない。
しかしいまのダグラスに恐怖はなかった。
ひどく身体が軽くなったような気がする。
あの不思議な青年は言っていた。
『もう戻れない。
彼はもうこちら側の人間です。
彼がそれを選んだから。
ならば彼に触れようとするあなたも、当然こちら側の人間になる。
できますか?
あなたはこの世と決別できますか?』
『カリアたちの辿った運命に続きたくなければ、大人しく軍におさまっていたほうが良いのでは?』
彼の言っていたことは今だにわからない。
カリアたちの息子に関われば、ダグラスの人生が変わってしまうということだけはわかった。
しかしそんなことは今のダグラスにはなんでもなかったのだ。
今だってこの場に立っていられるのは、ダグラスがもう自分の命を捨てる覚悟ができているからなのだ。
命を捨てられるのに、人生が変わることの何が怖いだろうか。
だからダグラスは真っすぐに前を向く。
自分よりも遥かに強い力を持った男の背中を。
「…………で?
君はこんなことを言いに来るからには、覚悟はできているんだろうな。」
ドープがさっきよりも低く聞こえる威圧感のある声で言う。
「はい。」
ダグラスもさっきより力のこもった声で答える。
ドープがこちらを向く。
「残念なんだが、君の要請を受けるわけにはいかない。」
ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「そして……
君のような危険因子を放っておくこともね。」