zinma Ⅲ
レイシアはドープからナイフを離し、ゆっくりと立ち上がる。
「…………それは女神でして。
私に忠誠を誓ってくれてる。」
少し遠退いたダグラスと石像のところへ近づくと、それを待っていたかのように石像が軋みながらダグラスを掴んでいないほうの片腕をレイシアへ向ける。
レイシアはその手をとり、貴族顔負けのそぶりでその手の甲にキスを落とす。
「彼女たちはいつも私の側にいる。
私が人間を止めた頃から……ずっと……」
そこでレイシアがドープのほうを振り向く。
「………もう一人。
もう一人だけ、私のことを、私がだれであっても、信じてくれていた人がいたんですよ。
師匠たち以外で。」
またドープの前に近づきながら、レイシアは自分の懐に手を入れる。
「彼女が……
彼女の存在が、私が人間の世界と繋がっていられる唯一の鎖だった。」
レイシアが懐から取り出したのは、黄緑色に光る美しい石だった。
「私はもう、人間としての要素は、このカタチだけなんですよ。」
その石をレイシアは握りしめる。
「彼女は、クトルに住んでいました。」
そこでレイシアはドープの目の前に立つ。
「不思議ですね。
なんだか縁があると思いませんか?私たち。」
突然笑顔を浮かべて、レイシアが言う。
ドープの頭に、手を触れる。
その右手は。
「あなたは私の目の前に何度も現れ、そしてその度に不幸をもたらす。」
その手はもう真っ黒で。
「あなたは私を穏やだったはずの人生から、誘拐して。」
その真っ黒な手が、脈打つ。
「人間を止めたくなるような屈辱にまみれた拷問をして。」
首から伸びる黒の脈が、顔を覆う。
「私の師匠を虐げ、死にいたらしめて。」
両目が真っ黒になる。