zinma Ⅲ
翌朝。
予告どおり、レイシアとシギは荷物をまとめミルディー亭をあとにした。
ミルディー亭の夫婦はひどく残念がった。
「本当に行っちまうのかい?」
その夫人の言葉にレイシアが微笑みだけを返すと、夫人はそれ以上なにも言わなかった。
ナムは目を涙ぐませていたが、涙を流すことはなかった。
ただ笑顔で、
「お気をつけて!」
と言って送り出してくれた。
3人に別れを告げ、レイシアとシギは街を出た。
目的の祠がある場所は以外とここから離れていない山の奥だった。
山まではおよそ丸一日もあれば行ける距離だった。
その山は不思議な雰囲気をたたえていた。
到着したのが夜だったというのもあるが、それだけではない。
「………魔力ですね。」
そのレイシアの言葉に、シギもうなずく。
この山には魔力が満ちていた。
もともと自然には魔力が存在する。
しかし今回のこの山の雰囲気は、ただの魔力ではない気もする。
どこかまがまがしく、いまに魔物でも出てくるのではと思うような空気だ。
「ですがこの魔力は……」
とシギが言うと、レイシアはそれにうなずきながら、
「ええ。ただの魔力じゃありません。
おそらく、『呪い』でしょう。
しかしただの『呪い』ではありませんね……。」
そう言ってレイシアは一度考え込むように目を閉じる。
そしてゆっくり目を開くと、
「これは………
何かの呪術のようなものも感じますね…。
祠が呪われているというのも、本当かもしれません。」
とだけ言うと、
「とにかく、行ってみますよ。」
と言ってレイシアは森へと進んで行った。