zinma Ⅲ

静かな変動









穏やかな昼下がり。




ダグラスはゆっくりと目を開いた。




視線の先は、ところどころにシミのある天井。





「目が覚めたかい?」




低くしゃがれた声が聞こえ、視線だけでその声の主を探す。


40代に見える男が、窓に取り付けられたカーテンを開けていた。



「……ここは…………」


思ったよりも声が出ない。



「酒場だよ。
まあ、酒場になってんのは下の1階だけで、ここは2階。

酔ったやつらを泊める部屋だから、好きに使いな。

下には降りて来るんじゃねぇぞ。」



そっけない口調で男が言う。



「酒場…………?」



いまいち頭がぼーっとしていて、状況が掴めない。

なぜ酒場にいるんだろうか。


昨晩はたしか…………




そこでダグラスは妙なことを思い出した。


女神と、悪魔と、天使。



嫌な、夢だったんだろうか。






「宿代はレイからもらってる。
必要なもんは揃えておいたからな。」





そう男が言い、一気に思い出す。


レイ。



レイシア・リール。






「彼は………レイシアはどこへ?」



そうダグラスが聞くと、男は無表情のまま答える。



「レイはついさっき出かけた。」




それから男は一度嫌そうにため息をついて、ダグラスへと近寄る。



「いいか?
面倒だから簡単に説明するが……

あんたらは今軍に追われてる。
それも極内密にな。

だから街ぐるみで危険なわけじゃあねぇが、外に出ればすぐに捕まっちまう。

レイが帰って来るまではおとなしくしてろ。いいな。」



そう言い放って男は部屋の出口へと向かう。



「俺だって職業柄、あんまり面倒には関わりたくないんだ。

だがレイのためだから泊めてやる。

そこんとこわかっとけよ。」



そこで男は部屋を出て行った。







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