zinma Ⅲ
ダグラスはゆっくりと上半身を起こした。
体中に倦怠感がある。
節々が軋み、頭痛がする。
頭を押さえながら、ふと隣のベッドに目をやる。
そこには、あの青年が寝ていた。
紺色の長髪を解いた状態で、仰向けになって眠っている。
まるで死んでいるのではないかと思うほど、固く目を閉じて静かに横たわっていた。
ダグラスは彼の布団が呼吸するように上下するのを見て、ほっと安堵の息をつく。
青年の頭へ手を伸ばしたところで。
「おはようございます。」
澄んだ声が聞こえ、驚いて弾かれたようにその声の方を見る。
するとその視線の先、さっき主人がカーテンを開けて行った窓がいつの間にか開いていた。
その窓枠に器用につま先だけでしゃがんでいる人物。
「あ、時間的にはこんにちは、ですね。」
昼間の太陽の光を背中に浴びて、プラチナ色の髪をきらきらと輝かせながらレイシアが静かに笑う。
「ここは酒場だと、私たちは追われていると聞いた。」
ダグラスは簡単にそう言う。
レイシアはふわりと部屋に入ると、青年の寝ているベッドへと近寄っていく。
ベッドの側に立ち、細く長い指で魔法陣をすらすらと描く。
そのスピードは明らかに昨日見た青年の動きよりも速く、正確だった。
「ここの主人はああ見えてかなり信用できる情報屋でして。
王都に来てからいくらか世話になったんですよ。」
そう言っているうちに魔法陣が完成し、きらめく。
するとその魔法陣と同じ魔法陣がベッドの下の床に現れ、淡く輝く。
それを確認すると、レイシアはそのベッドの脇に腰を降ろし、まだベッドで半身を起こしたままのダグラスに向き合う。
「私たちが追われるのは当たり前でしょう?
王城に忍び込み、破壊した私たち。
反逆者ともとれるあなた。」
レイシアはダグラスを指差す。
それにダグラスは微かに目をふせる。
長年王家に忠誠を誓って生きてきたのだが、ついに追われる身となったことを実感する。