zinma Ⅲ
その心境を振り払うように、ダグラスは弱々しく笑う。
「かくまってもらえる宿があって、よかった。
ここの主人はずいぶんと君を気に入っている様子だったな。
いったい何をしたんだか……。」
それにレイシアはいつものように穏やかな笑い声をあげる。
「はは、いえ。
私も立場上かなりの情報を持ってますから。
信用してもらえたんですよ。」
それに、そうか、と小さく返し、ダグラスは横たわる青年へと視線を移す。
「彼は大丈夫なのか?
全く目を覚まさないが………」
それにレイシアも肩越しに青年へ視線を向け、うなずく。
「ええ、まあ……。
しばらくは目を覚まさないでしょうがね。」
ダグラスがそれに少し眉を寄せる。
「外傷はないみたいだが………。」
レイシアはダグラスへと視線を戻し、肩をすくめる。
「身体的な問題ではないんですよ。
彼の中の、ルミナ族の血への影響が大きすぎたんです。」
そしてレイシアは青年の額にそっと右手の指先をそえ、目を閉じる。
「………ん。やはりまだ時間がかかりそうですね。」
「わかるものなのか?」
思わずダグラスがそう聞くと、レイシアは目を開けてうなずく。
「ええ、もちろん。
彼は昨日、魔力を消費しすぎたためにこうなっているんです。
私も魔力を持つ身ですから、わかりますよ。」
それからかかとを床に打ち付けて、言う。
「この魔法陣は昨日彼が使っていた巨大な魔法陣の簡易版です。
精霊を呼び出して、その魔力を彼に流し込んでるんですよ。」
そこでダグラスは昨日見た光景を思い出す。
青年が描いた巨大な魔法陣と、金色の巨大な女。
「……あれはそういう魔法陣だったんだな。」
ダグラスがそうつぶやくと、レイシアはうなずいて眠る青年のほうを向く。
また静かに手を伸ばし、少し乱れた紺色の髪を整える。
「無理にあんな魔術を使うから、こんなことになる。」