zinma Ⅲ
「それほど難しい魔術なのか?」
ダグラスがそう聞くと、レイシアはダグラスのほうを向いてにっこりと微笑む。
「あれは特別な魔術でして、ルミナ族だとしてもそう何度も使える魔術じゃないんです。
彼はまだ半人前なのにあれを使ったものですから、影響が大きすぎた。」
この床の魔法陣も私だからこんなに簡単にできるんですよー、と冗談めかしく言いながら笑うレイシアを、ダグラスは真っすぐに見つめる。
「君は一体何者なんだ?」
それにレイシアはまだにこにこと微笑んだまま答える。
「秘密です。」
「秘密?」
「はい。」
「それは知ることが危険だからか?」
「いえ。
あなたはすでにこちら側に踏み込んでますからね。」
「じゃあなぜ言わない?」
「面倒だからですよ。」
「面倒?」
その質問にレイシアは微笑みを返して、窓へと視線を向ける。
「私の存在はそう簡単に言い表せるものじゃないんですよ。
ここにいる彼だって、まだ完璧には私のことを理解できていない。」
その空虚な表情に、ダグラスはしばらく黙り込む。
「……じゃあ、私から質問する。
それには答えてくれるか?」
すると意外にも、レイシアは素直に微笑みながらうなずく。
「君はルミナ族ではないんだろう?」
「はい。」
「でも魔術は使える。」
「はい。」
「なぜ魔力がある?」
「ルミナ族と私の根源が同じだから。」
「同じ根源だけど、別の存在?」
「はい。」
「じゃあ、ルミナ族と君は、同じくらい古くに根源があるわけだね?」
「はい。」
「でも君はまだ十代に見える。」
「17です。」
そこまででダグラスはその情報をゆっくりと整理する。
ルミナ族と同じ力を持つ、彼。
根源は同じだが、彼が産まれたのはルミナ族の出現より遥かに後だ。
そこから推測されることは………
「………君は、君の力は、受け継がれるモノなのか?」